伊勢の老舗食堂がAI経営で世界をリード! ソロバン→AIの変貌を講演で解説します 。

“お伊勢さん”の門前町で約100年続く老舗食堂

 2012年まで「食券とソロバンで営んでいた」という昔ながらの食堂は、現社長・小田島春樹氏によって、自前のPC1台からICT化に踏み切りました。
 まずは、あらゆるデータを収集・保存したといいます。 採取した膨大なデータを武器に、2018年には来客予測システム店舗データの可視化・分析ツール『TOUCH POINT BI (タッチ・ポイント・ビーアイ)』を発表。また、小田島社長は同年のマイクロソフトMVP(AI部門)などを受賞しました。

Photo by ゑびや様

 今や国内外で注目を集める小田島社長が、三重県の中小企業経営者を対象に、中小企業ICT化の手順やポイントを語って下さいます。
 講演に先がけ本事業用等Webサイトでは、老舗食堂『ゑびや』の取り組みをご紹介。予算ゼロ円から始めたというシステム改革は、きっと多くの経営者にとって励みになるはず。
当サイトでは、ゑびや専務取締役でありEBILAB取締役CIOの堤 庸輔氏に語ってもらいました。当日の講演内容とは若干異なりますが、講演をより深く理解するための予備資料としてお役立て下さい。

小田島春樹氏講演会
9月27日(金)15:30〜 会場/ゑびや大食堂

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【講演者PROFILE】
小田島春樹
有限会社ゑびや 代表取締役社長
株式会社EBILAB 代表取締役社長

1985年、北海道生まれ。高校卒業後、日本大学商学部に入学し、マーケティングを専攻。卒業後は東京の大手IT企業に入社し、人事や新規事業開発を担当。2012年、妻の実家が営む『ゑびや』に入社し、店長、専務を経て現在は『有限会社ゑびや』の代表取締役。地域の課題解決をテーマに三重大学地域イノベーション学研究科の博士課程を単位取得退学したが、引続き論文を執筆中。

有限会社ゑびや(飲食・小売)
創業/1912年
社員数/ 55名
三重県伊勢市宇治今在家町13
http://www.ise-ebiya.com

株式会社EBILAB(システム開発)
創業/2018年
社員数/7名
三重県伊勢市宇治今在家町13
https://ebilab.jp

一軒の食堂が“自社開発”した
店舗データの可視化・分析ツール

 明日の来店者数や、必要な仕込み量、人員配置などを自動算出する店舗データの可視化・分析ツール『TOUCH POINT BI』を開発。自店で培ったノウハウを詰め込み、他の飲食店向けにアレンジして商品化した。小規模店舗でも導入しやすいようPCは不要。気象情報や観光情報など約150ものデータを一括取得し自動計算する。
 可視化され分析されたデータを活用し、小さな問題・課題の解決を繰り返したことで、自店で運用した際の的中率は90%超。社員一人あたりの売上高は約3倍に伸びた。

Photo by ゑびや様
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ゑびやICT技術の仕組み
『Microsoft Azure』を活用し…

  • web上のデータを自動収集・蓄積
  • クラウドAIで来店客を画像解析
  • Machine learning(機械学習)で来客数を予測
  • 予測結果をBI(Business Intelligence)でビジュアル化
  • IoTデバイスを活用し商材を自動発注

三重県伊勢市創業 100 年老舗「ゑびや大食堂」の挑戦を支える Microsoft AI

画像解析AIやビッグデータを活用し、サービス産業の新たな可能性を追求したい(小田島 春樹さん)(県政だより9月号)

    

『ゑびや』データ経営の歩み

2012年 ソロバンからExcelへ
それ以前は手書きで売上げ表をつけてファイリングしていた
2013年 レジを導入
それ以前は食券の“通し番号”から売れ行きを把握・推測していた
2014年 Excelの入力項目を増強
人気メニューの売上、天気、グルメサイトのアクセス数、観光予報プラットフォームより近隣ホテル宿泊者数など、多様なデータを採取し入力。スタッフの入力時間は、閉店後約30分かかるように。
2016年 クラウドPOSレジを導入
食堂の一部を商店(雑貨・土産)へと改装リニューアル。それを機に商店にはクラウドPOSレジ『スマレジ』を導入。レジ締め後ではなく、営業中もリアルタイムで売上を参照できることに一同感激。
2016年 Excel入力を自動化する仕組みづくり
雑務の軽減化を目指す。この頃から来客予測システムにも着手。
2018年 来客予測システム『TOUCH POINT BI』を完成、発表
IoTデバイスによる在庫の管理・自動発注を開始
重量センサで在庫を管理する『スマートマット』を導入。自動発注によりスタッフは煩雑な発注作業から解放された。
Photo by ゑびや様
Photo by ゑびや様

Talk about『ゑびや』インタビュー

お話/有限会社ゑびや専務取締役/株式会社EBILAB取締役CIO 堤 庸輔さん
【PROFILE】
 伊勢市出身。鳥羽商船高等専門学校卒業後、東京でシステムエンジニアとして活躍制御情報工学科卒業後、静岡県にてカスタマーエンジニアやシステム管理部門、ECサービスのサポート業務に従事。父の逝去により帰郷を決意。帰郷後の2016年、知人の縁から『ゑびや』に入社。
 『ゑびや』店舗のリニューアル、商店の新規立ち上げを担当。『 TOUCH POINT BI』ではプロジェクトマネージャーとしてシステムの開発・統括を行った。

有限会社ゑびや専務取締役/株式会社EBILAB取締役CIO 堤 庸輔さん

予算ゼロ円で始めたICT、データを取ると現状が見える

 社長の小田島が『ゑびや』に入社したのは2012年でした。その頃、まだ店にはエアコンもなかったといいます。伊勢神宮のすぐそばという立地の優位性のみで営業しており、主な提供メニューは、簡単に調理できる蕎麦やカレーなど。当時の客単価は約800円。毎日の売上げ管理は、手切りの食券と、手書きの記帳、計算はソロバンで、という状況。小田島の経営立て直しはそこから始まりました。当時は使える予算がなかったため、使えたのは自分が持ち込んだPCのみ。
 Microsoft Office PowerPointを活用してPOPを作り、店内や店頭に貼り出す事から始めました。そしてMicrosoft Office Excel(以下Excel)を使って日々のデータを記録し始めた事も、数ある努力の一つ。Excelで記録する項目は少しずつ増やし、2014年にはこのような情報を記録していました。

  • 本日の天気
  • 最高気温
  • 最低気温
  • 各メニューの売上げ
  • グルメサイトのアクセス数
  • 近隣の宿泊者数予報(観光旅行プラットフォームより)など

 データはフロアスタッフが閉店後に入力していました。皆PC操作に慣れておらず、また一項目ずつHPにアクセスして調べる必要があるため、入力にかかっていた時間は約30〜40分。現場の負担になっていました。 しかしそれでも小田島はあらゆるデータを蓄積することにしました。
 データ収集を始めてから、小田島は一つの思い込みに気づいたと言います。例えば『伊勢神宮への参詣客は、午前中は近隣の関西圏からが多く、午後になると遠方の関東圏に移行する』という感覚です 。実際にデータを収集してみたところ、そんな法則性は全く見られず、スタッフ皆で驚き笑ったといいます。
このように、経営者や職人の勘には “思い込み”や“勘違い”が混じっている事もしばしば。データにして可視化すると、意外な発見が多くもたらされるのです。
 

売上4.4倍はAI効果?
いいえ試行と分析の連続です

 データ収集と並行して、小田島はメニューの見直しにも取りかかりました。どこでも食べられる蕎麦やカレーを廃止し、“ちょっと特別な伊勢名物”を提供。生産者の元へと訪ね歩き、直接買い付け交渉をしました。新しいメニューのアイデアや意見はスタッフから広く募り、皆が常にアイデアを出してくれています。結果、『ゑびや』でお食事するお客様一人あたりの単価は、2012年に約850円だったのが、2018年には約2,500円に。客単価が約3倍に伸びました。そして売上高は4.4倍に。数字は毎年順調に成長しましたが、その中身は成功ばかりではありません。

 例えば『ゑびや』は現在、食堂の店先に屋台を出店し、あわび串を販売しています。その年間売上高は約1億円。あわび串を売る前は、屋台で伊勢エビの半身焼きを販売し、芳しくない数字を記録した事がありました。このように新しいアイデアを試し、データを記録し分析する、その繰り返しが現在の姿です。メニュー開発はもちろん、器や盛り付けなどあらゆる事に対して、一つ一つデータで振り返りました。

 IoTやAIを導入すると魔法のように売上げが伸びるか?と言えば、そうではありません。『ゑびや』は特殊なICTやAIで成長した会社と見られていますが、小田島の挑戦は試行と分析の繰り返しです。

意欲的な若い社員が到来、スマホでスピード報連相

Photo by ゑびや様

 店舗スタッフのITスキルは、“PCを触ったことがある”や“最近Excelを勉強し始めた”という人が大多数。フロア・厨房スタッフの数は、小田島が改革を始めた2012年からほぼ変わらず約50人です。それとは別にシステム開発に関わる社員が7人。社員全員がITに精通している必要はありません。

 変化の速さに辟易して会社を去る人、面白そうだと残る人、色々います。最近では、東京に住む若者から「ぜひ『ゑびや』で働きたい」と情熱的なメールが来て、採用に至ったことも。そんな風に“新しい働き方に触れたい”という若い社員が増えている印象です。一方で熟練の料理長は昔から一貫して力を発揮して下さっています。

 『 TOUCH POINT BI 』の発表以降も『ゑびや』の挑戦は続いています。例えば、お客様が店員を呼ぶ前に何の御用か(お水か/注文か/など)知らせるツールの導入、厨房内でロボットアームが働く自動配膳ロボットの導入など。実際に導入してみると想定していなかったことが分かったり、実運用にはまだ課題があることなども分かります。どちらも思うようにいかず「今は無理だと分かったね」という結果に。 このように何でも試してみるのが『ゑびや』なのだと思います。

 目指しているのは来客予測の的中率の向上ではありません。ロスを減らして利益を上げること。熟練の職人が去って経営が行き詰まらないよう、属人化を解消すること。『 TOUCH POINT BI 』をはじめとしたIoTやAIは、組織の問題の発見・解決するための手段の一つ。どんな方法がフィットするかは会社によって違うはずで、それこそAI化しなくても手書きや店内清掃などで解決できる問題も沢山あるはずです。

 事業を改善したいが「予算がない」「人がいない」とよく聞きます。しかし例えばスマホでチャットアプリを使う、Microsoft Officeを一層使いこなすなど、予算ゼロでも事業のスピードアップは可能です。もう一つ、すぐに使えるのは“現場の声”。『ゑびや』では若手社員からの意見を歓迎し、業務改善に役立てています。御社はいかがでしょう、現場からの声を聞き捨てていませんか?

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社員はこう見る『うちの社長』

ゑびや専務/EBILAB 取締役CIO/堤 庸輔さん

 社長は、新しいサービスや機器をよく持ち帰ってきます。またですか!となりますが、私自身も新しいモノを試せることにはとてもワクワクします。
今のゑびやは、そういう風に、新しい挑戦やサービス、機器を導入し、急激に変化をしています。私自身新店舗立ち上げから、社長と共に歩んできて、その頃はずっと一緒でしたが、最近は店にいることが少なくなり、正直少し寂しいと感じることもあります。
 しかし、社長がいつどこにいても、国外でもリアルタイムに現場の状況が把握できますし、先日も、20代の女性が支配人になった時はオンラインでみんなでお祝いをしたりと、データだけでなく、現場の様子や働く人を大切にするところが、社長らしさであり、ゑびやらしさだと思っています。
(取材/2019年8月)